著者: ヤマザキマリ
出版社: 幻冬舎
価格: 1650円
発売日: 2021年08月04日
ヤマザキマリ氏の『ヴィオラ母さん』が娘の立場から母との関係を描いたエッセイであるのに対し、
本書は、母の立場から息子との関わりを描くエッセイです。
ヤマザキマリ氏――夫のベッピーノ氏――息子のデルス君
の3人が、それぞれ14歳という年齢差であることは知っていましたが、
デルス君は、義理の父という間柄のベッピーノ氏を、次のように描写しているそうです。
「家族になってもぼくの父親にはなれないんだと気がついたあと、さっさと等身大の子供っぽい自分に戻せたところがすごい人」(p.219)
そのベッピーノ氏のプロポーズとは、次の国際電話。
「僕はあなたたち親子と一緒にいることでものすごいエネルギーがもらえた。だから家族になりたい。あなたたちの力にもなりたい」(pp.87-88)
こうして夫婦となった二人に、ある意味、振り回されて、
9歳で日本からシリア・ダマスカスへ、当地の情勢悪化により国外退去を命じられイタリアへ、そしてポルトガルはリスボンへ、
さらにベッピーノ氏の仕事を理由といてアメリカ・シカゴへ。
数学の才能とマルチリンガルを見込まれて、高校のエリートコースに身を置くことになったデルス君は、アメリカ本土の熾烈な競争生活を避けて、ハワイの大学へ進学、卒業。
そうそう、祖母リョウコさんの音楽教育を受け、幼少時からヴァイオリンに親しみ、その後、楽器をチェロに持ち替えて、ポルトガルやアメリカでもチェロ演奏で活躍されたとのこと、自然体でいながら、ちゃっかり祖母孝行もされていて、すごいなあ。
その後はというと、
その後はというと、
9歳から日本を離れ、世界の国々で変則的な教育を受けてきたデルスの口から「就職活動」という言葉が出てきた時は、正直驚いた。即戦力や実力を買ってもらえれば通年でも採用してもらえる海外では、就職活動なんていうものはない。つまり、デルスは日本において、日本人として、就職がしたいということになる。(p.197)
破天荒な母に振り回されつつも、しっかり自分の頭で考えて、進路を選んでいることが伝わってきます。
最後に掲載されたデルス君の一文 「あとがきにかえて「ハハ物語」」がまた、読ませます。
その文章の末尾は、書籍画像の帯にも印刷されています。
息子にとってこの世で誰よりも理不尽でありながらも、お人好しなほど優しい人間である母ヤマザキマリ。そんな母のおかげで国境のない生き方を身につけられた私は、おかげさまでこれから先も、たったひとりきりになったとしても、世界の何処であろうと生きていけるだろう。 山崎デルス
あっぱれデルス、あっぱれヤマザキマリ、としか言いようがありません。
楽しく読めました。