PIOピアノ雑記帳

ピアノ、クラシック音楽関連の話題を主とした雑記帳blogです。

タグ:♪アンドラーシュ・シフ

2023年10月1日(日)17:05開演 20:23終演
@ミューザ川崎シンフォニーホール

ピアノ(ベーゼンドルファー):アンドラーシュ・シフ

<プログラム>
当日、ステージ上でシフ氏自身が、曲目解説とともに発表
  • バッハ:ゴルトベルク変奏曲より アリア
  • バッハ:フランス組曲 第5番
  • モーツァルト:小さなジーグ
  • ブラームス:4つの間奏曲 op.117全曲
  • ブラームス:間奏曲 op.118-2
  • シューマン:ダヴィッド同盟舞曲集 op.6
(前半終了18:40)
  • バッハ:半音階的幻想曲&フーガ
  • メンデルスゾーン::厳格な変奏曲
  • ベートーヴェン::ピアノ・ソナタ第17番『テンペスト』
アンコール
  • バッハ:イタリア協奏曲 第1楽章
  • モーツァルト:ピアノソナタ K545 第1楽章
  • シューマン:楽しき農夫
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3階中央の最前列で鑑賞。
とにかく、すばらしい美音の弱音が、はっきり、くっきり届きました。
陶酔!

これから弾く曲の紹介→解説→演奏、という流れでしたが、
(シフ氏から「友人」と紹介された若者が、ステージ下手側に置かれたパイプ椅子に座って通訳)
「愛するこの曲が演奏できて幸せ♪」
というシフ氏の心情が、そのまま伝わってくる音楽でした。
  • ピアノの音色って、こんなにも美しかったのか!
という感動に満ち満ちた時間を過ごしました。
前半の部は、まるで幸せな歌声が聴こえてくるような演奏。
すべて、知っている曲目でしたが、今日はじめて
「このように演奏できる曲だったのか!」
と発見しました。

特に、ダヴィッド同盟舞曲集!
この中の1つの舞曲だけ、1年ほど前に練習&発表したことがあるのですが、
「いったい、どういう曲集なのか?どう演奏すればいいのか?」
という疑問が消えませんでした。
シューマン自身のキャラクターを「フロレスタン」と「オイゼビウス」に分けて表現するという発想が根本にある曲集であるとは知っていましたが、どう表現すればいいのか?

で、今日、シフ氏の演奏を聴いて納得、疑問氷解。
「いろんなキャラクターが続々と登場して、舞曲を踊ってみせる」
という様子を、弾き手も楽しんでわくわくと演奏すればいいんですね。
いやもう、ほんと、わくわくものでした。
一生懸命になって、まなじり決して弾くよりも、楽しく弾いちゃった方が魅力的なんですねえ。
シフ氏も
「現実の世の中は詩的とはとても言えない。そんな世界に生きる我々にとって、シューマンの曲は薬になる」
と表現されていましたし。

とはいえ、そうできるだけのテクニックと音楽性が必要になるわけなのですが。。。

後半は、「ニ短調」の3曲、とのこと。
悲劇的、心の痛み、といった言葉を用いた説明でしたが、
演奏そのものは、時折「悲劇的な鋭い音」を効果的に鳴らしながらも、全体的にはやはり、慈しむような弱音が主体。
今まで、
「これでもか、これでもか! 固く鋭い音色で苦痛を表現するぞ!」
「難曲を弾きこなす、このテクニックをよくご覧じろ!」
といった演奏に多く接してきただけに、今日の演奏は驚嘆ものでした。

それにしても、70代になるシフ氏、
暗譜当然、ミスタッチなんて、どこの話ですか~?
といった趣の演奏を、
まるで鍵盤を箒でシュッシュと掃くというか、撫でるような弾き方で実現していく様子は、まさにマジックでございました。

「メンデルスゾーンが、未だに実像よりも低い評価しか得ていないのは、反ユダヤ主義の権化・ワーグナーのせい」
「テンペストの終楽章が、実際にベートーヴェンが書いたテンポ(アレグレット)よりもずっと速く演奏されるのは、馬車が疾走する様子に勝手に喩えてしまった弟子のチェルニーのせい。人々をピアノ嫌いにさせる張本人ともいえるチェルニーの言うことを信じてはいけない」

といった語り口も、大変おもしろかったです。

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シフ氏の演奏を聴くのは4回目ですが(2017年2019年協奏曲2020年)、
彼にとっては、「その日の気分で」「解説しながら弾く」という形態が一番のびのびと演奏できるのかもしれませんね。

先日の生演奏、そしてWeb配信で、改めて感銘を受けたシフ氏。
そのマスター・クラスの動画、
妹から教えてもらって見てみました。

Christian De Luca: J.S. Bach's Italian Concerto | Juilliard Sir András Schiff Piano Master Class

配信元は、ジュリアード音楽院(The Juilliard School)。
指導を受けているのは
イタリア人の、Christian De Luca くん。
2017年10月16日の収録です。



シフ先生、ユーモアもたっぷり。
イタリア人の学生に向かって、開口一番

「で、今の演奏で表現したイタリアって?」
(So what is Italian about this? )

シフ氏の英語、とってもわかりやすくておすすめです。

「白と黒だけの演奏じゃなくて、もっと色彩を加えよう。」
「赤、黄、青、緑は必要だよ」

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印象に残ったのは
「Character」
「Sing」
「Listen」
という言葉が、何度も使われていたこと。
実際に声を出して歌わせちゃってましたし。
やっていることはオーソドックスなのに、生き生きとしたレッスン。
  • アクセントは、塩と胡椒。
  • 滑舌よく。口いっぱいに頬張ってモゴモゴ言わない。
  • 声部の受け渡しはタイミングが命。コメディアンのやってることと同じ。
  • ピアニストは打楽器奏者にあらず。スタッカートも鍵盤から指を離さずに。
  • 音符は民主的に扱う必要なし。主張する音、そうでない音の差を明確に。
  • 最後が「ごめんなさい」に聞こえる。なぜ?堂々と終わろう。
おすすめです。

2020年3月14日(土)

KAJIMOTOの配信、
19時40分開始、とのことでしたが、それには間に合わず
20時過ぎからの視聴となりました。
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「日本は清潔だから世界のどこにいるよりも安心」

と言ったことをお話しされているところから。
幸い、シフ氏の生演奏に間に合った、のかな?
これが最初の演奏だったでしょうか?
(追記:この演奏の前に、バッハの平均律が演奏されていました)

以下、シフ氏の言葉を書き留めてみました。
(シフ氏の話に私が追い付かず、欠けている箇所もあります💦)

  • ベーラ・バルトーク:ロンド
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子供のときから弾いている曲。
この曲を弾くとホームシックになる。
政治の問題で、
母の葬式以来もう10年もハンガリーには帰っていないが、
この曲を弾くことで、その埋め合わせができる。
音楽にはそういう力がある。

今回のリサイタルツアーでは
ブラームスの晩年の作品が中心。
ハンブルグ生まれで若くしてウイーンに移住。
晩年の作品は全てウイーンで作曲。
彼の時代には60代はもう老年で、死を意識。
(私も今60代で老年とは全く思わないが、時代が違う)

子供のために書かれたバルトークの曲の次には
老年に書かれたブラームスの曲を。
自然に喩えれば、秋を感じる音楽。春ではない。

シューベルトは「この世にhappy musicは存在しない」と言った。
時間は止められないから、時間と共に過ぎる音楽は哀しい。

  • ブラームス:インテルメッツォ イ長調 op.118-2

そんなに悲しくないね。
まだ希望がある。

日本に来て感じるのは、人々が音楽に尊敬を抱いていること。
心を傾けて音楽を聴いてくれること。

国際的とはいえ、人は、Independent。
ブラームスを弾くときは、ドイツの民族や音楽を思う。
バルトークを弾くときは、ハンガリー語のアクセントを思う。
作曲家のバックグラウンドを知ることは大切。

日本では、アジアでは、多くの若者がクラシック音楽を学んでいる。
コンサートに若い人たちの姿があるのは嬉しい。
欧州では伝統がありすぎるばかりに、
心を傾けて聴こうと言う人が減っているように感じる。
いつも、とは言わないが、そういう事実がある。

欧州では、年老いた人を尊重しようとしない風潮を感じる。

最後に、ベートーヴェンを。
彼の音楽は上へ、上へ、と昇っていくもの。
下に落とす、というものではない。

  • ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第26番 変ホ長調「告別」
ベートーヴェンのソナタの中で、唯一プログラムのあるソナタ。
彼の最も大事な弟子であったルドルフ大公に捧げたもの。
ナポレオンが攻めてくる折の曲。
第1楽章は「さよなら」の3音 Ges・F・Es
第2楽章から、そのまま休みなく入るフィナーレは「再会」。
喜びに満ちた音楽。

「また幸せな時が来る」というメッセージを込めて
この曲でお別れします。
みなさん、お身体を大切に。
2020-03-14 (9)

【追記】
最後はなんだか涙が出そうになりました。
シフ氏の演奏は心にしみます。

今回のインタビューと関連のある記事を、備忘録として貼っておきます。




@東京オペラシティコンサートホール
19:10開演 21:50終演

ピアノ:サー・アンドラーシュ・シフ

<プログラム>
  • メンデルスゾーン:幻想曲 嬰ヘ短調 Op.28「スコットランド・ソナタ」
  • ベートーヴェン: ピアノソナタ第24番 嬰ヘ長調 op.78「テレーゼ」
  • ブラームス: 8つのピアノ小品 op.76
~休憩~
  • ブラームス:7つの幻想曲集 op.116
  • J.S.バッハ: イギリス組曲第6番 ニ短調 BWV811
アンコール
  • J.S.バッハ: イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971 第1楽章
  • 同上 第2、第3楽章
  • ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第12番 変イ長調 op.26「葬送」から 第1楽章
  • メンデルスゾーン: 無言歌第1集 op.19bから「甘い思い出」、同第6巻 op.67から「紡ぎ歌」
  • ブラームス: インテルメッツォ イ長調 op.118-2
  • シューベルト: ハンガリー風のメロディ D817
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今月、唯一開催されたコンサート。
マスク必須、
チケットもぎり、プログラム配布&販売、クローク、飲み物販売、すべてカット!

開演前には、ステージ上にスクリーンが設置されていて、シフ氏のメッセージ動画、covid-19厳重警戒のための振る舞いのお願い等が、投影されていました。

さて、開演。
なんというか、もう、シフ氏は「神」でした。
1台のピアノから、どうやったら、こんなに多彩な音色が出せるのかっ!
マジック・ショーのような感じも。
オルガンのように響いたイギリス組曲。
チェンバロの響きが聞こえたイタリア協奏曲。

前回のリサイタルでは、
「休憩なしで一つの凝縮された芸術世界を構築する」
という異次元の試みを完遂したシフ氏。



今回は、
「音楽って、こんなに深くて、広いんだよ!」
というメッセージだったような。

あらゆる生演奏から隔絶されていた我々、ほんとに、スポンジのようになって、シフ氏の紡ぐ音楽を堪能いたしました。
シフ氏の素晴らしさはもちろんですが、聴衆の集中力もまた、特筆すべきものだったと思います。

アンコール6回!
最期は会場全員総立ち!
音楽、素晴らしい!


【追記】3/13
昨日は興奮状態で☝を書きなぐり、そのまま寝てしまったのですが、
一晩明けて、曲の感想を何も書いていないことに気づきました。

全般的に、テンポは速め、
ルバートで歌いあげるというより、音色で陰影をつけつつ
音楽の推進力を感じさせる、という弾き方だったように思います。

びっくりしたのは、テレーゼ。
ベートーヴェンのソナタの中では、
ちょっと軽めの位置づけの曲のように思うのですが、
この1曲だけを他の作曲家の曲の中に置いてみると、
いやまさに、
「ベートーヴェンらしい構築力」をドドーンと感じました。
この曲に対するイメージが一新してしまいました。
格調高さに背筋が伸びる思い。

ブラームスの重厚感にも痺れました。
下手をすると退屈になってしまいそうな、曲集全曲通し演奏も
シフ氏の手にかかると、1曲1曲が実に新鮮。
アンコールの人気曲、インテルメッツォ イ長調 op.118-2も
冒頭の甘さより、中間部のりりしさを生かすような演奏でした。
これまた、曲に対するイメージ一新です。

バッハについては言わずもがな。
ピアノがチェンバロに変身したかのような音色がなぜ出る?
イギリスの灰色ムードから、
イタリアのすとーんと明るいムードへ。
アンコールでガラリと切り替わったバッハに、驚嘆いたしました。

いったい、どれだけの引き出しをお持ちなのか。。。
恐るべし、シフ氏。

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あ、書き忘れましたが、
3月14日、シフ氏によるライブ・ビューイングがあるそうです。
ほんとに、
こんな時に来日してくださって、
リサイタルを開催してくださって、
ライブ・ビューイングまで。
ありがとうございます。感涙です。ただもう、感謝!

2019年11月7日(木)19:00開演 21:55終演
@東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

サー・アンドラーシュ・シフ[指揮・ピアノ]
カペラ・アンドレア・バルカ[管弦楽]

〈プログラム〉
ベートーヴェン:
ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 op.19
Ⅰ. アレグロ コン ブリオ
Ⅱ. アダージョ
Ⅲ. ロンド、アレグロ モルト

ピアノ協奏曲第3番  ハ短調 op.37
Ⅰ. アレグロ コン ブリオ
Ⅱ. ラルゴ
Ⅲ. ロンド、アレグロ

〜休憩〜

ピアノ協奏曲第4番  ト長調 op.58
Ⅰ. アレグロ モデラート
Ⅱ. アンダンテ コン モート
Ⅲ. ロンド、ヴィヴァーチェ

(アンコール)
ピアノ協奏曲第5番 皇帝より
第2、3楽章

ピアノソナタ第12番 葬送より
第3、4楽章
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幸せな時間でした。
2階B席、ピアノ🎹に向かうシフ様とほぼ正対する席で堪能。
シフ様自身、実に幸せそうな表情で、音楽に浸っておられました。
はい、なんかもう、「演奏する」という状態を超越して。

弾き振りのありようが、あまりに自然で、
もともと、こうあるべきなのではないか?と思わせられました。

モーツァルトのような香りが感じられる協奏曲第1番から、どんどんベートーヴェンらしくなっていくプログラムも面白く聴きました。
明日の演目のはずの「皇帝」まで聴かせていただけて、
さらに、ピアノソナタまでたっぷりと。
シフ様、大盤振る舞い!感激です!

聴衆、男性率、高し。
上から見た感じ、最前列は全員男性。
スタンディングオベーションで、シフ様と向き合ってお辞儀の応酬のようになっていた方も。

特別感に満ち満ちた一夜となりました。
来年1月以降、NHK「クラシック音楽館」で放映予定とのことです。
見逃さないようにせねば。

青柳いづみこ『ピアニストたちの祝祭』中央公論新社 2014

という本を読んでいます。
青柳氏がさまざまな雑誌などに寄稿された、音楽祭や連続コンサートのレポートをまとめたもので、ポリーニ、アルゲリッチ、内田光子などの活動紹介にもなっています。
その中に、「闘う音楽家、ダニエル・バレンボイム」という章があり、
バレンボイムの2005年2月東京公演(指揮者として、またピアニストとして)について書かれていますが、そのうちサントリーホールでのピアノ・リサイタルについて

サントリーホールは決してピアノ向きの会場とは言えず、音が分散してしまうのが通例だが、バレンボイムはうまくまとめてきれいに調和させている。ステージを見ると、ピアノが通常より二メートルほど右寄り、中心線を客席に合わせた形でやや斜めに置かれている。サウンドを大切にするバレンボイムのことだから、いろいろ工夫した結果なのだろう。(p.94)

という指摘があるのを読んで、はたと思い出しました。
今年2017年3月に聴いた、アンドラーシュ・シフのリサイタル@東京オペラシティでも、
ピアノは舞台上で斜めに置かれていたなあ、と。
青柳氏の描かれる、サントリーホールでの状態と同じかどうかは判断がつきかねますが、
シフ氏のピアノは、ステージの縁に平行というよりも、
どちらかというとピアニストが客席に背を向けるような方向に斜めを向いていました。
ピアノの音色が本当に美しいのは、その位置によるものなのか、
はたまた、ベーゼンドルファーの最新モデルModel280vcというピアノ自体によるものか…。

こと、音色となると、微妙な差にも敏感なのでしょうね、一流のピアニストという方々は。
私など、ピアノが変わっても「どちらがいい」とはなかなか決めかねる程度でして、
まだまだ修行が足りませぬ。。。

20170712book

話は飛びますが、夭折したチェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレは、バレンボイムの奥様だったのですね。キャリアをピアニストか指揮者かで限定したくなかったバレンボイムが、妻との室内楽でピアノのキャリアを続けていたということも初めて知りました。なんか、いろんな意味で、深いです。。。

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