PIOピアノ雑記帳

ピアノ、クラシック音楽関連の話題を主とした雑記帳blogです。

カテゴリ:【コンサート・レビュー】 > ピアノ(鍵盤楽器)・リサイタル

横浜みなとみらいホール25周年音楽祭
反田恭平オルガン道場

2024年3月24日(日)17:30開演 19:35終演
@みなとみらいホール 大ホール

<プログラム>

パイプオルガン公開レッスン(講師:近藤岳 受講生:反田恭平)

~休憩~

10代のためのパイプオルガン・レッスン修了生による演奏
  • 大塚結音 伝C.P.E.バッハ:ペダル練習曲 ト短調 BWV 593
  •      伝J.S. バッハ:「8つの小プレリュードとフーガ」より第8番 変ロ長調 BWV 560
  • 米田咲希 J.S.バッハ:「いと高きところには神のみ栄光あれ」BWV 711(ビチニウム)、BWV 260(コラール)
  • 天田桂菜 J.S. バッハ「わが心の切なる願い」 BWV 727
  •      ヴィエルヌ:「24の自由な形式による商品」Op.31より「カリヨン」
みなとみらいホール・プロデューサー反田恭平による演奏
  • 反田恭平 J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565より「トッカータ」
  •      ブラームス:<11のコラール前奏曲>Op.122より「一輪のバラは咲いて」
  •      ショパン:ラルゴ 変ホ長調
みなとみらいホール・ホールオルガニスト近藤岳による演奏
  • 近藤岳 ラフマニノフ(近藤岳 編曲):前奏曲 嬰ハ短調 Op.3-2「鐘」
  •     リスト:コンソレーション 第4番 変ニ長調
  •     ヴィエルヌ:ウェストミンスターの鐘
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2時間たっぷり楽しめました。
これでチケット代1000円って、素晴らしいコスト・パフォーマンス💖

反田さんの第一声
「お客さんまで、遠いっすね。昨日と全然違うわ。」って、まさに!
私、双眼鏡片手に鑑賞しましたが、ステージ上のスクリーンに映し出される映像がありがたかったです♪

前半は40分におよぶ公開レッスン。
「こんな大勢のお客さんの前でレッスンを受けるなんて、やったことない。緊張するわ~」
とのことでしたが、4回目のレッスンで、複雑な足鍵盤もこなすって、さすがです。
手のほうの鍵盤が上下に4段も並んでいるだけで、目がくらくらしそうですが、
鍵盤の位置によって硬さが違う(鍵盤の反応スピードが異なる)のが、大変なのだそうです。
右、左で鍵盤を押すスピードを調整しないと、同時に音を出すことができない、とのこと。
同様に、離鍵も難しい、とのお話でした。

近藤さんのアドヴァイスとしては
「パイプが、管楽器が風によって音を出す様子をイメージして」
「指によって音が残ってしまう箇所があるので、注意」
反田さん、
「オーケストラと同じですね。そこ、音が残ってるよ、って、俺、よく言ってるし」とのこと。

幼いころは、いろいろな音が出せる電子ピアノで、あれこれ遊んだという反田さん、
今日もブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」のテーマや、交響曲を朗々と弾き始めたりして、それに応じて近藤さんは、てきぱきとストップを出し入れしたりして、二人とも実に楽しそうなご様子でした。

休憩後の演奏会では、ふつうはあまり聴けない練習曲なども聴けて、大変興味深かったです。
みなさまレベルが高くて、びっくりでした。
鍵盤が2段、3段と連結されて動くようになると、がぜん音色が豊かになること、
足鍵盤のビンビン響く音色など、スクリーンの動画でよくわかりました。

でも、やはり、最後の近藤さんの演奏がピカイチ。
音響としても、音楽の作り方としても。
足元の動きは、足鍵盤を駆け上がったり駈けおりたりする一方で、シャッターペダルで音量調節も行っている様子がよく見えました。
オルガン演奏って、マルチタスクの極致ですね。
ストップが自動でパキパキ出たり引っ込んだりしているように見えたのは、事前にプログラミングされているんでしょうけれど、どこでどう操作しているのか不思議です。

近藤さん、他の方々の演奏時は隣に控えて、ストップの出し入れに、譜めくりにと大活躍。
反田さんの演奏後、「楽器に関係なく、音楽そのものが響いてきて感動で涙が出た」と話されていましたが、みなさま、尊敬の念を抱き合って音楽づくりをされている様子に、こちらも感動の念を覚えました。

浜松滞在初日(3月8日)の記録ですが、こちらは浜松国際ピアノアカデミーのイベントではありません。

今回の旅行仲間がリサイタルで感銘を受けたというピアニストさんが、
たまたまこの日、なんと浜松でレクチャーコンサートを催されると聞き、
「これは運命!」とばかりに4人で聴きに行ったのでした。
それにしても、なんと濃密な1日、いや半日(新幹線🚅遅延のせい)であったことか!

2024年3月8日(金)15:00開演 16:30終演
@かじまちヤマハホール
主催: 静岡大学ピアノとウェルビーイング研究所
後援: ロームミュージックファンデーション

テーマ「絵画の音楽・音楽の色彩
画家/作曲家ジョルジュ・ミゴ(1891-1976)を通して」

〈パトリシア・パニー〉
スイスのベルン芸術大学教授。フランス生まれ、イタリア育ち。
1989年,クララ・ハスキル国際ピアノコンクールファイナリスト、90年、アレッサンドロ・カサグランデ国際コンクール優勝。

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レクチャー、演奏曲目、ともに資料はプロジェクターに投影されたのみで、手元に残る資料は配布されなかったため、走り書きメモを元に書きます。
ということで、漏れも、記憶違いも多々あるかと。

パニーさん、黒い細身のパンツに、背中がぱっくりと開いた、大きな柄のあでやかオレンジ系ハイネックブラウスで登場。センスの良さが滲み出ておられました。

【レクチャー】
音楽と絵画の関わりの深さ
  • メンデルスゾーン(水彩画のタッチの正確さは彼の音楽に通じる)、
  • パウロ・クレー(オーケストラの中でも演奏。絵のタイトルに「赤いフーガ」「ポリフォニー」など音楽用語を用いる)
  • ドビュッシー(美術のジャポニズムに傾倒=日本とフランスの文化的な近しさ)は20世紀を開いた人であり、自然界のものを音楽化。後のプーランク、オネゲル、ミゴらが彼の後継者といえる。
会場に向かって、自然の要素「水」「風」「火」をアクションで表現してみて!と促し、誰しもがそういう感覚を持っているでしょう、と指摘。
ドビュッシーの前奏曲集より、「水の精」「音と香りは夕暮れの大気に漂う」「花火」からの抜粋を演奏した後、
花火の音型を使って、水の重さ、空気の軽さ、火の激しさを実演。

【演奏曲目】
  • ドビュッシー: 音と香りは夕暮れの大気に漂う
  • ジャン=ジャック・ヴェルネール: 「ソフィーへの夢歌」より
  • ジョルジュ・ミゴ: ノクターン第1番
  • リリ・ブーランジェ: 明るい庭
  • ショパン: ノクターン 嬰ハ短調 op.27-1
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記念に、我ら4名それぞれに異なるCD💿を購入し、サインもいただきました(このイベント、ありがたいことに無料だったのです。太っ腹!)。
パニーさん、自然体の気さくな方で、わかりやすい英語でコミュニケーションがとれました。
(レクチャーはフランス語🇫🇷で、主催大学教授の方が通訳されました)。

浜松国際ピアノアカデミーで2コマしか聴講できなかったのには、新幹線遅延とともに、
実は、こういう事情があったのでした。

2024年3月8日(金)19:00開演 20:40終演
@音楽工房ホール(研修交流センター2階)

「心から共感する音楽に魂を吹き込む」
〜世界が認めるチャクムルのシューベルト〜
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90分のうち、チャクムル氏によるピアノ生演奏は最後の15分程度。
プロジェクターに楽譜を映しながらの「講義」がメインのイベントでした。
でも、やっぱり感銘を受けたのは、生演奏🎶に尽きます。

【演奏曲目】
  • シューベルト: ピアノソナタ第21番 変ロ長調 D960より第1楽章(途中まで)
  • シューベルト: 即興曲集 D899 第3番 変ト長調(アンコールとして)
【レクチャー】

演奏法には、長い歴史の間に生じた誤解がある。
それを、音楽学的な視点から明らかにしたい。
  • 1950年代以降: ヴェルクトロイエ(Werktreue=スコアに忠実であること)が求められる
シューベルトが生きていた時代の演奏は、1950年代以降に良しとされたものとは異なる。
そもそも音楽とは「天から降りてきたものを書きとった」ものだが、全てを余すことなく書き切るのは不可能であり、本来は演奏者に任される部分もあった。

コレルリの時代(17世紀)には60%が奏者に任されていたとも言う。
それが、後世のラヴェルの楽譜になると、指示は全て楽譜に書いてあり、奏者に任せる部分は皆無になる。
アマチュア市民が演奏するようになって、編曲者が
「アマチュアも楽しめるように」
と、あれこれ書き込んだり、編曲したりするようになったことが一つの要因。
例として、バッハのブゾーニ版、スカルラッティのロンゴ版などがある。

その結果、「ウルテクスト(原典版)」を作ろうという機運が生まれ、
ヴァルクトロイエ(スコアの忠実性)が唱えられるようになった。
しかし、
ピアニストのゼルキンが、ベートーヴェンのソナタ第2番で指示されている指使いは演奏不可能だとして演奏を拒否しているように、原典版は万能ではないし、
ウィーンフィルのウインナーワルツのリズムは、楽譜に書かれたものではない。
楽譜以外に、人から人へと受け継がれる音楽の伝統がある。

ショパンやリストなど、弟子や身近な人がエピソードを書き残している作曲家もいるが、シューベルトにはそういう人がいない。もちろん、録音もない。
ただ、シューベルトが自作の歌曲の伴奏をする際に
「どう弾くかは厳格に楽譜に書いた」
と言っていた、という証言がある(byベートーヴェンとも交流のあった弁護士、ゾン・ライトナー)。

……さて、ここからは、楽譜提示と、古い音源による歌唱法比較の嵐。
(残念ながら、私にはほとんど理解できず😢 馴染みのない歌手の名前にも、プロジェクターで提示される小さな音符にもついていけませんでした🙇‍♀️)

おそらく、チャクムル氏が指摘したかったのは、
シューベルトが「楽譜に厳格に書いた」と表現したのは、
「(ドイツ風に歌うのでなく)イタリア風に歌って欲しい。伴奏は歌いすぎずに安定して弾いてほしい」
という意味だった、ということではないかと想像します。

この歌曲に対するシューベルトの意志は、当然ピアノ曲にも反映させるべきで、
その意味で、2018年にチャクムル氏が録音したピアノソナタには満足していない、
録音当時から、何かしっくりこないものを感じていたが、その正体が今やはっきりした、
とのこと。
で、まず、6年前の録音を会場に流した後で、
現在のチャクムル氏の解釈による演奏が行われました。

まさにまさに、ベルカントな、歌い上げるシューベルト!
衝撃でございました。なんたる進化ぶり!
6年を経て、まるきり別物の演奏でありました。
途中で演奏をやめてしまわれたのが、なんとも残念無念😭(おそらく時間の関係?)。

最後に「アンコールとして、大好きな曲を」との前振りの後で、即興曲。
講義の間は会場全体に漂っていた眠気感が、
演奏になるや、一掃されて会場全体で覚醒していました。
そんなムードの一変も、面白かったです。

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私、この日の早朝、前日に放映された「クラシック倶楽部」のチャクムル氏の演奏とインタビューを視聴していたのですが(→2021年のレビュー)、
このときに語っていた
「正しい文法で演奏すれば、音楽はおのずと立ち上がるのです。」
という言葉の意味も、今では変化しているに相違ありません。
これからの進化も楽しみだなあと感じました。

2024年2月25日(日)14:00開演 15:35終演
@武蔵小杉サロンホール

<プログラム>
  • バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第2巻 第1番 ハ長調 BWV870
  • バッハ:前奏曲 ハ短調 BWV999
  • バッハ=コルトー:『チェンバロ協奏曲 BWV1056』よりアリオーソ
  • モーツァルト:ロンド 二長調 KV485
  • モーツァルト=クリントヴォルト=浅田陽子:『レクイエム KV626』より<思い出したまへ><呪われしもの><涙の日>
  • モーツァルト=宮下秀樹(左手用):アヴェ・ヴェルム・コルプス KV618
(休憩)
  • ショパン:エチュード ホ長調 Op.10-3 『別れの曲』
  • ショパン=青木茂:『17のポーランドの歌』より 1.願い 6. 私の目の前から消えて 10. 兵士 15.いいなづけ
  • ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 Op.66
  • ショパン:ワルツ 第3番 イ短調 Op.34-2
  • ショパン:バラード 第3番 変イ長調 Op.47
アンコール1曲
(金曜の本コンサートのために、曲名は秘しておきます♪ あ、同じく衣装についても😊)

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全曲暗譜による演奏、
気負わず、聞きやすい語り口での簡単な曲紹介、
聴き手に安心感と集中力をもたらす起ち居振舞い(ステージマナー)、
……いやあ、感服いたしました。

選曲がいいですねえ。
ピアノコンクールでさまざまな賞を受賞している彼女ですが、
「過去3回のリサイタルで弾いたことのない作曲家」
つまりは、苦手意識のある作曲家をあえて取り上げた、とのこと。
前半は宮廷時代のバッハ&モーツァルト、
後半はロマン派代表ショパン、
と、休憩を挟んで雰囲気をガラリと変えたところも、
前半のバッハとモーツァルトの対比も、いろいろと発見があって、楽しかったです♪

また、編曲ものを挟み込むという仕掛けにも、耳が惹きつけられました。
アンコールも秀逸で、
めちゃくちゃ寒い日でしたが、あったかい気分で帰路につくことができました。
広島のみなさま、どうぞお楽しみに♪

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↑の画像は開演前(椅子、全部は写しきれてません)。
わたくし、仰せつかった録音スタッフの役割を無事遂行でき、ホッといたしました。

ご本人、来場者は10人前後、なんて予想されてましたが、
こちらは見事に外れて、その倍以上はいらしたのではないかと。

入口からお洒落な雰囲気で、
ベーゼンドルファーのピアノも、素敵な音色でございました💖

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2024年2月6日(火)19:00開演 20:50終演
@ミューザ川崎シンフォニーホール

ピアノ:イム・ユンチャン

<プログラム>
ショパン作曲
  • 3つの新しいエチュード(第1番 ヘ短調 第2番 変イ長調 第3番 変ニ長調)
  • 12のエチュード Op.10(第1番 ハ長調 第2番 イ短調 第3番 ホ長調「別れの曲」 第4番 嬰ハ短調 第5番 変ト長調「黒鍵」 第6番 変ホ短調 第7番 ハ長調 第8番 ヘ長調 第9番 ヘ短調 第10番 変イ長調 第11番 変ホ長調 第12番 革命)
  • 12のエチュード Op.25(第1番 変イ長調「エオリアン・ハープ」 第2番 ヘ短調 第3番 ヘ長調 第4番 イ短調 第5番 ホ短調 第6番 嬰ト短調 第7番 嬰ハ短調 第8番 変ニ長調 第9番 変ト長調「蝶々」 第10番 ロ短調 第11番 イ短調「木枯らし」 第12番 ハ短調「大洋」)
[アンコール曲]
  • ショパン:ノクターン第2番 op.9-2
  • ベッリーニ(ショパン編):歌劇「ノルマ」より 清らかな女神よ
  • ショパン:12のエチュードop.25より 第1番「エオリアン・ハープ」syopa
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ピアノの音色で、雄弁に語り合い、歌い合うかのような音楽が流れてきました。
精密にコントロールされた各声部が、同時にささやいたり、うなったり、吠えたり。
そして、何を述べたいのか、意志がくっきりと伝わってくるのです。

最初の新エチュードの2曲目で、もう胸キュンでした。
ルバート、上手すぎますっ!

虚空を見つめる演奏者は、弾くというより、音楽と対話しているかのようでした。
エチュードを並べた、というより、
「エチュード集」という作品全体で、物語世界を構築しました、という趣。
新鮮に聴こえる部分がたくさんありました。
なるほど~。魅力的です。

びっくりしたのは、拍手とともに黄色い声、ヒュ~ヒュ~いう声が聞こえたこと。
休憩時間に韓国語の会話を多々耳にしましたが、韓国ではヒュ~ヒュ~が普通?
いやいや、ユンチャン君の人気爆発の証拠ですね。
2022年のクライバーン・コンクールで、圧巻の優勝を果たして以来なのかな?
それとも、それ以前から韓国では人気だったのでしょうか。

ご本人のほうは、
超絶技巧を鼻にかける様子も、観客に向って笑顔を見せる様子も皆無で、
お辞儀も、ぴょこたんと床を見つめるような不器用さでしたが、初々しさに好感が持てました。
(ドヤ顔で愛嬌ふりまかれるのは嫌いなんです、私。)

小さい曲を積み重ねた世界観だけでなく、
今度は、ドーンと大きい曲、深い曲でのユンチャン君の表現力を見て(聴いて)みたいものです。

2024年2月2日(金)19時開演 20時50分終演
@ヤマハ銀座コンサートサロン(ヤマハ銀座店6F)

<プログラム>
シューベルトツィクルスVol.1
  • アレグレット ハ短調 D915
  • アダージョ ホ長調 D612
  • ピアノ・ソナタ第13番 イ長調 D664
  • 第1楽章 Allegro moderato
  • 第2楽章 Andante
  • 第3楽章 Allegro
  • 即興曲集 Op.142  D935
  • 第1番 ヘ短調
  • 第2番 変イ長調
  • 第3番 変ロ長調
  • 第4番 ヘ短調
(アンコール)
  • 即興曲集 Op.90  D 899 
  • 第2番 変ホ長調
  • 第3番 変ト長調
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シューベルトって、ググっとお腹に響く、
空気の密度を濃くする作曲家だったんだ!
と発見いたしました。(今さらっ💦)

1曲目の後の短いトークで、
この1月に、4年ぶりにベルリンを再訪されたことについて語られ、
「暗っ!」
と思い、ああ、この空気の中でシューベルトが好きになったんだった、
シューベルトは寒い部屋の中のろうそくのような存在だった、
というお話をされましたが、それが、すとんと腑に落ちる演奏でした。

自分を振り返ってみて、
シューベルトって、ベートーヴェンと比較すると、
キラキラ、ふわふわ……といったイメージが浮かんでいたのですけれど、
それは大きな誤解であった!と気づきました。

まさに「音楽と対峙する」集中度と密度、圧巻でした。

ドイチュ番号600番台と比べると、900番台の晩年(といっても20代の終わり)の曲は、
ベートーヴェンの初期と後期の差に匹敵するほどの違いがある、とのお話に納得。
本プログラム後半、短調の即興曲の濃密さといったら!

我が丹田、鍛えねば!

2024年1月18日(木)19:00開演 21:00終演

<プログラム>
  • ベートーヴェン:創作主題による 32 の変奏曲 ハ短調 WoO.80
  • ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第 22 番 へ長調 op.54
  • シマノフスキ:ポーランド民謡による変奏曲 ロ短調 op.10
  • フランク/フルネル編曲:前奏曲、フーガと変奏曲 op.18
  • ショパン:ピアノ・ソナタ 第 3 番 ロ短調 op.58
[アンコール曲]
  • J.S.バッハ(ジロティ編):前奏曲 ロ短調
  • J.S.バッハ(マイラ・ヘス編):主よ、人の望みの喜びよ BWV147
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輝く音色に、美しい響きに、胸キュンでございました。
どの曲も、冒頭の一音で瞬殺💖って感じです。
ベートーヴェンと、シマノフスキとで、「同じピアノ??」と思うほど音色が変わって、驚きました。

「なんて美しい~」と夢心地でいると、
だんだん熱量が上がって来て、圧倒的な、めくるめく情熱世界も展開していきます。
あの細い身体のどこから、こんな豊穣な響きがっ??と、目を、耳を、疑いました。

キラキラと輝く声部が、あちらでも、こちらでも、クリアに響くことにも驚嘆。
特に後半の2曲。そして、アンコール!
実に豊かに歌っている主声部の背後でささやいている他の声部も、また美しいんです。
まるでマジック!と思いました。

夢見心地の2時間でした。
最後はまさに「万雷の拍手」そして、スタンディングオベーションでした。

東京オペラシティ リサイタルシリーズ
バッハからコンテンポラリーへ ビートゥーシー

2024年1月16日(火)19:00開演 21:05終演

ピアノフォルテ・モダンピアノ:川口成彦

<プログラム>
  • ジュスティーニ:ソナタ イ長調 op.1-8
  • J.S.バッハ:イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971
  • J.S.バッハ:《音楽の捧げもの》BWV1079から3声のリチェルカーレ ハ短調
  • J.C.バッハ:バッハの名による半音階的フーガ ヘ長調 W.YA50
  • モーツァルト::前奏曲とフーガ ハ長調 K394

  • カゼッラ:バッハの名による2つのリチェルカーレ op.52 ★
  • オネゲル:バッハの名による前奏曲とアリオーソとフゲッタ ★
  • 杉山洋一:山への別れ(2021)
  • アグステリッベ:パウル・クレー(2013)
  • カルディーニ:前奏曲とトッカータ《春の始まり》op.181(2024、川口成彦委嘱作品、世界初演)
[使用楽器]
クリストフォリ1726年(復元:久保田彰) 415Hz
ジルバーマン 1746年(復元:久保田彰) 392Hz
ワルター 1795年(復元:クリス・マーネ)430Hz
★ モダンピアノ(スタインウェイ)   442Hz

アンコール
  • アルベニス:旅の思い出 op.71より 第6曲「入江のざわめき」
  • J.S.バッハ:協奏曲 ハ長調 BWV976より ラルゴ
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舞台上にフォルテピアノが4台、スタインウェイが1台、勢ぞろい。
写真撮影禁止とのことでした。

かそけき音色、聴こえるだろうか……との思いは杞憂でした。
右手前方に席を確保(自由席で、開演前は長蛇の列)したこともあって、
音色はとてもクリアに届きました。
フォルテピアノ、名前を裏切らぬだけの音量の幅を備えています。

楽器説明などのトークを入れながら、アットホームに進めるのかと思ったら、
いやいや、トークはアンコールの曲目紹介のみ。
演奏に徹する、本格的なリサイタルでした。

きちんと製本された楽譜を譜面台に置かれて、
めくる瞬間がわからないほど静かに自然にすっとめくられます。
バタつくことが全くない佇まいが印象に残りました。
川口市、余裕たっぷりに、実に楽し気に演奏されます。

プログラムには
「本日の公演は4台すべての楽器が違うピッチになっています。ピッチにとらわれない一夜、どうぞお楽しみください。」
との注意書きが。
「イタリア」で発明されたピアノの原点クリストフォリ 、
「バッハ」縁にジルバーマン
18世紀の後期を代表するワルター◎、とのことです。


一番音程が低く調整されていたと思われる中央のジルバーマンで演奏されたイタリア協奏曲は、ちょっと耳慣れない感じ。特に第2楽章は、歯切れよく演奏されるバス音も相まって、初めて聴く曲のように響きました。
「イタリア」「バッハ」へのオマージュを意識して組まれたというプログラム、楽しめました。

「BACH」の音程、耳に沁みつきそうです。
非常に密度の濃い時間が流れていました。
演奏家としても、プロデューサーとしても、川口氏が凄腕でおられることに納得したリサイタルでした。

2023年12月17日(日)14:00開演 15:45終演
@YCC代々木八幡子コミュニティセンター ホール

ハモンドオルガン:山口綾規
楽器(機器):ハモンドオルガンB-3、レスリースピーカー

<プログラム>
  • J.ウィナー:茶色の小瓶
  • J.S.バッハ:主よ、人の望みの喜びよ
  • J.S.バッハ:フーガ ト短調
  • 作曲者不詳:アメイジング・グレイス
  • M.トーメ:ザ・クリスマス・ソング
  • P.チャイコフスキー:『くるみ割り人形』より
~休憩~
  • J.ガーランド:イン・ザ・ムード
  • H.マンシーニ:ムーン・リバー
  • L.アンダーソン:そりすべり
  • A.ピアソラ:ブエノスアイレスの冬
  • J.ホーナー:マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン
  • L.アンダーソン:フィドル・ファドル
  • R.ロジャーズ:『サウンド・オブ・ミュージック』メドレー
アンコール
  • Z.de アブレウ:チコ・チコ・ノ・フバー
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実に楽しいコンサートでした。
演奏者がたった一人だなんて、信じられないほどの豊潤な響き。
山口氏、お一人でストップ入れ替え、譜めくり(譜面のない楽曲が多数でしたが)、演奏、トークと、八面六臂の大活躍。
ほんとに手と足と、2本ずつなのか?と、チェックを入れてしまうほどでした。

軽妙なトークと、闊達な演奏で、聴衆をすっかり魅了。
会場で販売されていた新譜CDは、我々が購入しようとしたときには
「残り1枚です」
ということになっていました(別ルートで購入することにした我々です)。

「そりすべり」や「サウンドオブミュージック」では、のりのりに身体をゆすって楽しんでいるお子ちゃまたちの姿もあちこちに。
あったかい雰囲気に包まれたコンサートでした。

プログラミングも、聴衆を疲れさせず、楽しませるようになっていて、さすがだなあと思っていたら
「僕が愛するシアターオルガンのオルガニストが、かつて上映映画に合わせて行っていたプログラミングと似たような格好になりました」
とのことでした。
(シアターオルガンについては、こちらの記事を参照ください。)

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さるところから借り出されたというハモンドオルガンは、御年55歳とのこと。

「骨董感」醸し出してますけど、そんなに古くはないんです。こんなに傷ついているのは、あちこち旅しまくっているからなんですよ。

とのトークが入りました。
右側の四角い箱は、「レスリースピーカー」というスピーカーで、上部の穴の奥にも、株の黒く空いている部分にも、なにやらぐるぐる旋回しているものが見えていました。
帰宅してから調べてみたら、

レスリースピーカーは1940年にロサンゼルスのドン・レスリー(Donald J. Leslie)によって開発されました。ホーンやローターを回転させることによって生じる周期的なうねりやドップラー効果によるビブラートの響きは、もともと教会のパイプオルガンの代わりとして広まったハモンドオルガンに、大聖堂のパイプオルガンの響きのような荘厳な音の広がりを持たせることとなり、ハモンドオルガンとレスリースピーカーは切っても切れないものとなりました。

という記述がありました(→ハモンドオルガンとは?レスリースピーカーとは?)。

いろいろ勉強にもなりましたし、楽しい時間でしたし、満足感たっぷりで帰宅いたしました。
あったかい日曜日、初めて訪れた会場から駅までの道も気持ちよかったです。

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2023年12月7日(木)19:00開演 21:00終演

<プログラム>
  • ヘンデル:組曲(クラヴサン組曲第 2 集から) HWV 440 変ロ長調
  • ハイドン:ソナタ 第 49 番 Hob.XVI:36 op.30-2 嬰ハ短調
  • ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第 27 番 op.90 ホ短調
  • トーマス・アデス: Traced Overhead
  • リスト : ダンテを読んで-ソナタ風幻想曲 S.161/R.10-7 A55 ~巡礼の年 第 2 年「イタリア」 より
  • リスト : タランテッラ S.162/R.10 A197 ~巡礼の年 第 2 年への追加「ヴェネツィアとナポリ」より
(アンコール)
  • ウラディミール・ホロヴィッツ:ビゼーのカルメンの主題による変奏曲
  • プーランク:シテール島への船出 FP150
  • ブゾーニ :11のコラール前奏曲(ブゾーニによるピアノ独奏編) 第10曲 Op.122 イ短調
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巨匠でございました。
プログラムを見てわかるとおり、古典派から現代曲まで、何でもいけますよ、という。

前半は、繊細な弱音に痺れました。
全くかすれることなく美しく響く、それはそれは小さな音に。
ころころと転がるような音に。

後半は、さまざまな情景が浮かぶような音の重なりに。
水しぶきのようにはじける音から、分厚く重厚な音の渦まで、ただ圧倒されました。
リストの2曲は、アタッカで、続けて演奏されましたが、まるで音による演劇を見るようでした。

それぞれキャラクターの異なるアンコール3曲も圧巻。
超絶技巧であっても、けっしてこれ見よがしには響かず、音の少ない曲の切なさが胸に迫ります。
最後はスタンディング・オベーションが起きました。
今日は空席が目立ったことが、残念でした。

胸にさした、目立たないほどのウクライナ・カラーのチーフも印象に残りました。

2023年12月6日(水)19:00開演 21:05終演
@浜離宮朝日ホール

ピアノ:務川慧悟

<プログラム>
  • ロベルト・シューマン:子供のためのアルバム op.68より 第30番「無題」
  • ロベルト・シューマン:4つの詩曲 op.23(1.葬列 2.奇妙な仲間 3.夜の宴 4.独唱付きの輪唱 ……後に削除されたタイトル)
  • クロード・ドビュッシー:前奏曲 第2集より 3.酒の門 5.ヒース 10.カノーブ  12.花火
  • フレデリック・ショパン:ノクターン 第6番 ト短調 op.15-3
  • フレデリック・ショパン:バラード 第4番 ヘ短調 op.52
  • 早坂文雄:室内のためのピアノ送品集より 12.優しくふんわりと歌うようなラルゴ 14.内的で敬虔なモデラート
  • セルゲイ・ラフマニノフ:コレルリの主題による変奏曲 op.42
アンコール
  • J.S.バッハ:フランス組曲より アルマンド
  • モーリス・ラヴェル:クープランの墓より メヌエット
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バッハを中心に据えたプログラムを二夜続けた後の第三夜。
5日間連続してリサイタルを催そうという意図は、演奏会を日常にして、緊張から解放された平常の音を届けたいとの思いだった。
だが、今日までの3日間は同じように緊張しているので、今のところ目論見通りにはなっていない……というご本人の解説が、アンコール1曲目と2曲目のあいだに入りました。

今日、明日の選曲は「作曲家が心情を吐露しているような曲」とのことです。
(こういう表現ではなかったような……すみません。私の曲解も入ってるかも💦)

前半終曲の「花火」が秀逸でした。
個人的には、これに尽きます。
後半の早坂文雄も魅力的でした。

残念だったのは、客席後方(あるいは2階?)から連続して放たれ続けた、凄まじい音量の「咳」。
聴き手の集中を大いに削ぐものでしたし、ウイルス拡散の恐怖すら感じました。
後半、一応止んだ(とはいえ、連鎖反応でしょうか、客席あちこちからの咳はアリ)のは、休憩時間に「ホール係に連絡する」といった声が聞こえていたように、実際に行動をとられたのでしょうか。

体調の悪いときには、ホールには赴くまいと肝に銘じました。

2023年10月21日(土)15時開演 17時10分終演
@浜離宮朝日ホール

ピアノ:松本和将
楽器:ラフマニノフ・スタインウェイ(1932年製)
ラフマニノフが晩年の10年間、ニューヨークの自宅で所有していたピアノ

<プログラム> 
セルゲイ・ラフマニノフ作曲
  • 前奏曲 Op.3-2 嬰ハ短調 「鐘」
  • 楽興の時 第3番 ロ短調 Op.16-3
  • ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 Op.18 第1楽章(松本和将編)
  • 前奏曲 Op.23-4 二長調 Op.23-5 ト短調 Op.23-2 変ロ長調
  • ヴォカリーズ Op.34-14(コチシュ編)
  • ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 Op.18 第2楽章(松本和将編)
  • コレッリの主題による変奏曲 Op.42
  • ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 Op.18 第3楽章(松本和将編)
アンコール
  ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ「悲愴」第2楽章

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いやもう、驚嘆のひとこと!
「鐘」の最初の和音で、「なな、なんだ、この音は!」と度肝を抜かれました。
すばらしい響き。
曇ることも、濁ることも、妙な共鳴や反響に邪魔さされることもなく、クリアに届く音。
モダンピアノと、ピリオド楽器の、両方の特徴を兼ね備えているような?
実に魅力的な音の渦に、大音響に身を浸す感覚を堪能しました。

松本氏ご自身で編曲されたという、ピアノ協奏曲のピアノ・ソロ版にも、びっくり。
ピアノ一台で演奏しているのに、まるでオーケストラの音色が聴こえてきました。
超絶技巧のオンパレードなのは明らかなのですが、
そういったテクニックよりも、その音楽のスケール、音色、音量に圧倒されました。
ああまで弾きこなせる人って、世の中にそういないのでは。

トークも挟みながら、ラフマニノフの人生についても解説してくださる形式。
本日に向けて、ネット上でもいろいろな動画を公開してくださっていて、松本氏のサービス精神にも驚きつつ今日を迎えた私ですが、
「オーケストラからのオファーを待たなくても、ピアノ一台でこの大好きな曲が演奏したかった」
という話を聞いて、また仰天。
え? オーケストラとの共演の機会がそんなに少なくていらっしゃる??
ここまでの実力者なのに??

なんだか、いろんな刺激が多すぎて、ちょっと消化するのに時間がかかりそう。
そんなリサイタルでした。

2023年10月17日(火)19:10開演 21:15終演
piano:藤田真央

<プログラム>
  • ショパン:ポロネーズ第1番 嬰ハ短調 op.26-1
  • ショパン:ポロネーズ第2番 変ホ短調 op.26-2
  • ショパン:ポロネーズ第3番 イ長調「軍隊」op.40-1
  • ショパン:ポロネーズ第4番 ハ短調 op.40-2
  • ショパン:ポロネーズ第5番 嬰へ短調 op.44
  • ショパン:ポロネーズ第6番 変イ長調「英雄」 op.53
  • ショパン:ポロネーズ第7番 変イ長調 op.61
  • リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178
 (アンコール)モーツァルト:ロンド イ短調 K.511

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前半のポロネーズ全7曲、一度も立ち上がることなく演奏されました。
約1時間、ぶっ続けでの集中力たるや、お見事。

そういった全体構成を見渡してのことでしょうか、
第1番はソフトペダルを多用して、寂寥感の漂う演奏でした。
ポロネーズといえば、元気のいい踊り!という短絡的な考えを抱いていた私、リサイタル冒頭から新鮮な驚きを覚えました。

俺様系、テクニックこれ見よがしなタッチは皆無。
とにかく音楽が湧いてきてしまう、次へ、次へ、と連環していきたい、
音楽世界に浸りたい、止めないでくれ……とでもいうような純粋な音楽魂に触れた感覚。

後半のリストが、また異次元でした。
一音、一音、ここまで心を込めて扱えるものなんですね。
いわゆる和音の分厚い箇所、テクニックを要する疾走する箇所を、難なく演奏する力があることはもちろんですが、
単音の続く箇所、さらにいえば、沈黙の間が、なんとまあ雄弁に語っていたことか!
天国から降ってくるような音色が、何と幸福感に満ちていたことか!
脱帽です。
フライング拍手なく、真央ワールドに浸りきった聴衆もあっぱれだと思います。


そして、アンコールになるや一転、ピアノがピリオド楽器のような音色になってしまったのが、まさにマジックでした。
真央マジック、どこまで進化するのでしょうか。
末恐ろしく、そして、楽しみです。

園田高弘Memorial Series in 2023
ドイツ撰集 ライプツィヒ篇

2023年10月14日(土)14:00開演 16:20終演
@東京文化会館小ホール

<プログラム>
  • J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903(岡田将)
  • C.P.E.バッハ:ロンド Wq57-3、幻想曲 Wq59-5(平井千絵)
  • メンデルスゾーン:厳格なる変奏曲 ニ短調 Op.54(川合綾子)
  • メンデルスゾーン:アンダンテと華麗なるアレグロ イ長調 Op.92(島田彩乃&青柳晋)
  • シューマン:アレグロ ロ短調 Op.8(大崎結真)
  • シューマン:幻想曲 ハ長調 Op.17(高橋礼恵)
  • レーガー:6つのワルツ Op.22(ドゥオール)
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真剣勝負のピアニスト競演、といった趣の演奏会でした。
さすがは一流の演奏家たち、音がすっきりと飛んできました。
そんな中でも、演奏家によって音色はずいぶんと異なるのも興味深かったです。
特に、冒頭、スケール満点のかっちりしたドイツ音楽から、
まるでチェンバロのような響きによる、洒落たリズムの音楽への変化には驚かされました。

実は、この後すぐにスタジオに移動して連弾練習に入ったという事情もあり、
前半、後半最後の連弾の響きは、大変勉強になりました。

さて、来週、再来週は私自身の発表が。
直前の追い込み、頑張ろうと思います。

2023年10月7日(土)14時開演 16時終演
@フィリアホール

ピアノ:三浦謙司

<プログラム>「天と地」
  • ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 Op.27-2「月光」
  • ドビュッシー:ベルガマスク組曲
  • バルトーク:ルーマニア民俗舞曲 BB.68
  • ゴドフスキー:「ジャワ組曲」より クラトンにて
  • モーツァルト:きらきら星変奏曲 K.265
  • ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー
(アンコール)
  • ドビュッシー:「忘れられた映像」より レント(憂鬱に、そしてやさしく)
  • アール・ワイルド:ガーシュウィンによる7つの超絶技巧練習曲より 第4番 Embraceable You
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「天と地」というコンセプトで、三浦氏自らが企画したプログラムとのこと。
よく提示される二分法ではあるが、実際にはグレーな部分が多いのがこの世界。
そのあたりのことを考えてほしい、といった意欲的なテーマのようです。

「天」として、
ベートーヴェンの「月光」ソナタ、
「月の光」を含むベルガマスク組曲、
純粋無垢と言われるモーツァルトの有名作を取り上げるが、
どの作品も、そのような単純な世界観ではとらえきれない作品であるはずで、その先の世界観を提示したい、といったメッセージが。

確かに。

「月光」ソナタ第1楽章は、正確に淡々と刻まれる左手のリズムに、ロマンチック性というよりも、ある意味不気味さを感じました。
そして、第2楽章、第3楽章と、それぞれ全く異なる世界がくっきりと描き出されるさまに、戦慄を覚え、なんというか、音楽世界の奥深さを見せつけられた気がしました。

そして、演奏姿をじっくりと観察して、先日のシフ氏に通じる
まるで鍵盤を箒でシュッシュと掃くというか、撫でるような、脱力エキスパートの弾き方に目が惹きつけられました。

さまざまな曲想が楽しめる、充実のプログラムでしたが、
印象的だったのは、身体のなかからリズムが自然に湧き上がってくるような舞曲系の音楽です。
バルトーク、そして、ガーシュインは唯一無二では、と思いました。

年齢層の高い聴衆でしたが(ホール会員の方々が多いのかな?)、
拍手はなかなか鳴りやまず、会場全体での集中度の高いコンサートでした。

また、聴きたいピアニストです。
(ちらりと覗く赤い靴下も、おしゃれでした)

2023年10月1日(日)17:05開演 20:23終演
@ミューザ川崎シンフォニーホール

ピアノ(ベーゼンドルファー):アンドラーシュ・シフ

<プログラム>
当日、ステージ上でシフ氏自身が、曲目解説とともに発表
  • バッハ:ゴルトベルク変奏曲より アリア
  • バッハ:フランス組曲 第5番
  • モーツァルト:小さなジーグ
  • ブラームス:4つの間奏曲 op.117全曲
  • ブラームス:間奏曲 op.118-2
  • シューマン:ダヴィッド同盟舞曲集 op.6
(前半終了18:40)
  • バッハ:半音階的幻想曲&フーガ
  • メンデルスゾーン::厳格な変奏曲
  • ベートーヴェン::ピアノ・ソナタ第17番『テンペスト』
アンコール
  • バッハ:イタリア協奏曲 第1楽章
  • モーツァルト:ピアノソナタ K545 第1楽章
  • シューマン:楽しき農夫
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3階中央の最前列で鑑賞。
とにかく、すばらしい美音の弱音が、はっきり、くっきり届きました。
陶酔!

これから弾く曲の紹介→解説→演奏、という流れでしたが、
(シフ氏から「友人」と紹介された若者が、ステージ下手側に置かれたパイプ椅子に座って通訳)
「愛するこの曲が演奏できて幸せ♪」
というシフ氏の心情が、そのまま伝わってくる音楽でした。
  • ピアノの音色って、こんなにも美しかったのか!
という感動に満ち満ちた時間を過ごしました。
前半の部は、まるで幸せな歌声が聴こえてくるような演奏。
すべて、知っている曲目でしたが、今日はじめて
「このように演奏できる曲だったのか!」
と発見しました。

特に、ダヴィッド同盟舞曲集!
この中の1つの舞曲だけ、1年ほど前に練習&発表したことがあるのですが、
「いったい、どういう曲集なのか?どう演奏すればいいのか?」
という疑問が消えませんでした。
シューマン自身のキャラクターを「フロレスタン」と「オイゼビウス」に分けて表現するという発想が根本にある曲集であるとは知っていましたが、どう表現すればいいのか?

で、今日、シフ氏の演奏を聴いて納得、疑問氷解。
「いろんなキャラクターが続々と登場して、舞曲を踊ってみせる」
という様子を、弾き手も楽しんでわくわくと演奏すればいいんですね。
いやもう、ほんと、わくわくものでした。
一生懸命になって、まなじり決して弾くよりも、楽しく弾いちゃった方が魅力的なんですねえ。
シフ氏も
「現実の世の中は詩的とはとても言えない。そんな世界に生きる我々にとって、シューマンの曲は薬になる」
と表現されていましたし。

とはいえ、そうできるだけのテクニックと音楽性が必要になるわけなのですが。。。

後半は、「ニ短調」の3曲、とのこと。
悲劇的、心の痛み、といった言葉を用いた説明でしたが、
演奏そのものは、時折「悲劇的な鋭い音」を効果的に鳴らしながらも、全体的にはやはり、慈しむような弱音が主体。
今まで、
「これでもか、これでもか! 固く鋭い音色で苦痛を表現するぞ!」
「難曲を弾きこなす、このテクニックをよくご覧じろ!」
といった演奏に多く接してきただけに、今日の演奏は驚嘆ものでした。

それにしても、70代になるシフ氏、
暗譜当然、ミスタッチなんて、どこの話ですか~?
といった趣の演奏を、
まるで鍵盤を箒でシュッシュと掃くというか、撫でるような弾き方で実現していく様子は、まさにマジックでございました。

「メンデルスゾーンが、未だに実像よりも低い評価しか得ていないのは、反ユダヤ主義の権化・ワーグナーのせい」
「テンペストの終楽章が、実際にベートーヴェンが書いたテンポ(アレグレット)よりもずっと速く演奏されるのは、馬車が疾走する様子に勝手に喩えてしまった弟子のチェルニーのせい。人々をピアノ嫌いにさせる張本人ともいえるチェルニーの言うことを信じてはいけない」

といった語り口も、大変おもしろかったです。

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シフ氏の演奏を聴くのは4回目ですが(2017年2019年協奏曲2020年)、
彼にとっては、「その日の気分で」「解説しながら弾く」という形態が一番のびのびと演奏できるのかもしれませんね。

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