第13回【画家が音楽から学んだものルドン「シューマンの肖像」/シューマン「子供の情景第1曲見知らぬ国々と人々」】
2017年9月27日(水)放送→ストリーミング 2017年10月5日(木) 午後3:00配信終了
実践女子大学教授…六人部昭典


シューマンのピアノ曲「子供の情景」
1838年、シューマン自身の述べる作曲動機:クララがシューマンを指して”ときどき子供のようににみえる”と言ったので、子供時代に戻ってこれらの曲を作った。(クララ宛の手紙)

象徴主義の画家、オディロン・ルドンにとって、シューマンは最も敬愛する作曲家。
1903年 パステル画「シューマンへのオマージュ」(縦50センチ、横40㎝)
20170929shuman
(画像はホームページ「ルドンと音楽」より)

ルドンの言葉「シューマンは詩人だった」→少年のような顔立ちのシューマンを描く
しかし彼は、音楽そのものを対象とする絵は残していない。
晩年に、竪琴とオルフェウス(=詩と音楽が一つになったモチーフ)を描く絵を何点も描いている。
音楽を知るからこそ、音楽を取り上げることに慎重だったルドンの言葉
「音楽はある特殊な鋭い感受性を育てる。情熱そのものと同じようにそれ以上に危険なものだ。その扱い方を知っているものだけに恵みを与える。

「シューマンへのオマージュ」には、ルドンの前半期の特長モノクロームと、後半期の特長である色彩の双方が表れている。

****

このシリーズ「絵画の変革と音楽の関わり」総括

A.音楽と絵画の違い
(1)描写・再現性
音楽は感情など目に見えないものを表現し、絵画は目に見えるものを再現する
絵画は、音楽の持つ「暗示」を取り入れた。
★ルドン:「暗示の芸術はものが夢に向かって光を放ち、思想がそこへ向かうもの。これは音楽のような世界において魅力を発揮する。」
例)パステルの青色が水を暗示する作品において、詩人の清らかさを暗示

★ゴーガン:「聞く力を持つ力を持つものとしての色彩」「色彩の暗示する力」「私の作品はすべてが計算されており、長い熟考の結果です。いわば音楽なのです。」

★ホイッスラー(唯美主義):作品にシンフォニー、ノクターンなどのタイトル
音楽が音の詩であるように、絵画は視覚の詩である。主題は音の、あるいは色彩のハーモニーと何の関わりもない。」

(2)構成・フォルム
「コンポジション」という言葉は、絵画では構図を、音楽では作曲そのものを意味する。
シニャック:海を主題とした4点の絵に、アダージョなど音楽の速度記号と作品番号だけのタイトル
「(新印象主義における点描の)単位は、音符に等しい」

★マチス:音楽の和音や構成をヒントに制作 赤い部屋
「色調のあらゆる関係が見いだされたこと、そこから音楽の和音、調和が生まれる」

(3)時間
音楽は時間を伴う芸術  絵画は時間を持たない
★デュフィ:時間の中に広がる音をどのように描き出すのか苦慮
「線と色彩の扱い方には駆け引きが求められる。両者を和解させる。」

★ブラック:「楽器というモチーフは触れることで生命を帯びる」そのモチーフを丸ごと把握したいという思いが、触覚を重視した分析的キュビズムを生む。遠近法による空間を解体し、絵画に第4の時限、時間を投入。

★クプカ:絵の題名に音楽用語を用い、音楽とともに運動に関心を寄せる。時間の中に広がる音、時間の中に展開される生命的な運動を絵画で表現。

B.楽器の持つ時代背景
★ルノアール:絵の主役にアプライトピアノ=当時の人々が求めた家族像を描く 国民的家族像
★ピカソ:青の時代 ギターは民衆とともにある楽器 民衆の生活に関心を寄せる

C.画家と作曲家の関係
★ドニとドビュッシー:選ばれし乙女の楽譜表紙にドニが版画。二人ともアラベスクに関心を寄せ、 それぞれの芸術形成の中で重要な役割を果たす。
ドニ「絵画とは、一定の秩序のもとに配された色彩である」

★ドラクロアとショパン:本来、サンドとショパンの二人を描いた絵には、二人の芸術家に寄せた画家の思いが表れている。自分より12歳も若いショパンを尊敬していた。

★モネとドビュッシー:モネが睡蓮を描いた年と同じ1905年に、ドビュッシーが同じ主題の作品を発表。印象主義と象徴主義が極めて近い位置にあったことを示す。

【まとめ】
多くの画家がそれぞれに音楽の持つ特質をヒントに、自分の絵画を確立し、音楽の変革をもたらした。
「モチーフ」
絵画:楽器や人物など描かれる対象
音楽:楽曲を構成する最小単位 さまざまに反復されて楽曲を展開させる

二つの芸術分野の特質を表現する言葉だが、一般的にはまず「動機」を指す。
その語義どおり、画家の制作動機と結びつくことで、音楽は絵画に大きな影響を与えた。