第10回【「青の時代」とギターピカソ「老いた盲目のギター弾き」/ファリャ「漁夫の歌」】
2017年9月6日(水)放送→ストリーミング 2017年9月14日(木) 午後3:00配信終了
実践女子大学教授…六人部昭典


ピカソ作「老いた盲目のギター弾き」122.9㎝×82.6㎝
1903年制作 シカゴ美術館所蔵 (画像はMUSEYより)
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1891年生まれのピカソ
青の時代
1901年から「青の時代」が始まる→ピカソ20歳の若者の時代
【「青の時代」の特徴】
・画面を覆う青の色調
・細く引き延ばされた人体表現
社会の底辺に生きる民衆への眼差しがあり、悲しみと叙情性が表れている。

「老いた盲目のギター弾き」には上記の特徴がすべてある。

ピカソと同じスペイン出身の同時代の音楽家といえば、ファリャ(ピカソより5歳年上)。
ファリャは、スペインのカンテ・ホンド(ロマが伝えてきた口承音楽)を守ろうと尽力した。
20世紀を代表する詩人・ロルカもファリャと協力。
ピカソ、ファリャ、ロルカの3人は、民衆への眼差しという点で共通し、3人の中心にあったのがギターであり、放浪する民。

放浪といえば、若者が自己を確立していく道のりと似ている。
ピカソの「青の時代」は、まさに若者ピカソが自己を確立していく時代。

・「画家であった父を超えたい」との青年らしい思い
→本名「パブロ・ルイス・ ピカソ」の中の父方の姓「ルイス」を避け、母方の姓「ピカソ」を名乗るようになったのが、まさにこの1901年の青年期。
・親友が、青年期ゆえの苦悩により自殺
1900年にピカソとともにフランスへ向かい、二人で共同生活をして絵に没頭した親友・カサヘマスが、1901年にピストル自殺。ピカソは彼の死を悼む作品「エボカシオン」(招魂)を制作。
これが「青の時代」の嚆矢となった。

キュビズムは、前回ブラックの回で指摘したように「触覚」から始まったもの。
ギターに「触って」奏でる音楽に耳を傾ける「盲人」は、このモチーフそのもの。
キュビズムの旗手となるピカソが既にここにある。

1903年の大作「人生 ラヴィ」になると、女性の身体が丸みを帯び、ピンクの色彩も現れる
→次の「バラの時代」へ。「青の時代」が青年ピカソの自己確立とかかわっていたことを示す。