第7回【絵画の構成と音楽 マティス「音楽のレッスン」/ハイドン「ピアノ三重奏曲 ホ長調」】
2017年8月16日(水)放送→ストリーミング 2017年8月24日(木) 午後3:00配信終了
実践女子大学教授…六人部昭典


アンリ・マティス 1916年
「音楽のレッスン」
(バーンズコレクション所蔵)縦245cm 横200cm
(画像はPinterestより)
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シニャック(→第4回放送)の影響で、
活動初期には新印象主義、点描の技法を用い(初期作
「豪奢 静寂 悦楽」1905年)、
その後、
アラベスクと世紀末美術に関する興味を強め、
北アフリカ・アルジェリアの工芸品に感銘を受けて絵の題材とし、自己の絵画構成を確立させていったマティス。(代表作「赤い部屋」1908年 エルミタージュ美術館蔵・「赤のハーモニー」とも )

「音楽のレッスン」と同時期に描いた「ピアノのレッスン」(NY近代美術館蔵)では、人物は二人だけで表情も少なく、できるだけモチーフの細部を取り払い、直線でシャープな構成をとっている。
マティスの造形上の探求は、こちらのほうに結実している。

「音楽がわずか7つの音符で構成されるように、絵もいくつかの色彩で構成」
「色彩の自律的な価値、色彩で構成する」ことを主張したマティス。
「コンポゼ(構成する)」という動詞は音楽では作曲を意味する。
マティスが音楽を念頭において、絵画を考えたことは明白。

「音楽のレッスン」と題する絵は、マティスの作品中、例外的な絵。
人物が多く、その人格も窺えるほどに表情豊か
実はこれはマティスの自宅風景。家族の肖像画
・ピアノを弾く次男ピエール16歳(バランスを考慮して手元は描かれない)
・長女マグリット22歳 弟の手元に視線 優しく見守る
・読書する長男ジャン17歳 
・窓の外に座るマティス夫人アメリ
・マティス自身は、右手奥に掛けられた絵、ピアノの上のヴァイオリン(マティス愛用の楽器)に象徴されている。

1916年、第一次世界大戦ただなか 
長男ジャンが第一次世界大戦に召集された時期に、
つかの間のかけがえのない一家団欒、ひとときの平穏な時間を切り取った。
長男のジャンが無事に帰り、マティスの好んだハイドンピアノ三重奏の合奏が可能になることを期待して描かれた、一家にとって特別な絵。

(参考)「赤の部屋」(1908年・エルミタージュ美術館蔵)
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