著者: 石井宏
出版社: 七つ森書館
ページ数: 413頁
発売日: 2013年09月01日
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はい、この本の表紙の右半分の顔が、楽聖「ベートーヴェン」
左半分の顔が、その実像「ベートホーフェン」というわけです。

右半分の顔は、学校の音楽室に必ず掛けてありますよね。これ、虚像です。
本当は、真っ黒な髪の、風采の上がらない小男でした。
彼が爆発的に売れたのは、1814年「ウェリントンの勝利」という曲によってであり、この曲に合うイメージのブロマイドとして、音楽室の肖像画は生まれたのだそうです。

彼を有名にした曲は、今では誰も振り返らない駄作。
ただ、勇ましい戦争賛美曲を求める風潮の中、この曲が異例な大ヒットとなります。
それに有頂天になるベートホーフェンの姿はあちこちに書き残されているそうですが、彼も内心では傷ついていたはず。
聴衆に届けようと心を砕いて作曲したソナタや交響曲はさっぱり人気が出ず、駄作が大人気となったのですから。
以来、彼は「聴衆に届けよう」とする姿勢、聞き手への信頼を放棄し、「書きたいものを書く」作曲法へと踏み出し、後期作品を生み出していきます。

「初期」「中期」「後期」という区分のしかた、
私、いまひとつ意味するところを解らずにいたのですが、この説明には納得でした。

曲名についての情報も、なるほど、です。
「英雄」交響曲曲のアイデアは、若き日のベートホーフェン(まだ交響曲を一つも書いていない27歳)にナポレオンの部下・ベルナドットが授けたもので、のちに「ポナパルト交響曲」として書かれたこの曲、時勢を読んだ出版社が出版にあたって名前を変えた、とか(作曲家自身で変えたというのは後世の作り話)、
このベルナドット、その後フランス執政政府から駐オーストリア大使に任ぜられ、ウィーンに乗り込んできたのときの随員の中にいたヴァイオリニスト・クロイツァーに献呈されたのが「クロイツェル・ソナタ」である、とか。

私生活での恋人の話も、根拠が続々と引用されていて、読ませます。
家族については、ベートホーフェンが自分の弟の息子をその母から無理やり引き離し、手元に引き取ってひどい目にあわせたという、甥っ子のカールが、その後軍隊で認められ、遺産も手にして、ちゃんとした人生を送ったということ、その母も息子カールの死後の80代まで長生きしたことを知って、なんだかほっとしました。
そのカールの後見人たる権利をめぐる裁判記録とか、生々しくて驚きました。
ベートホーフェン、確かに性格的な問題を抱えていそうです。

このように、うんちく、なるほど納得、の情報に満ちた本です。
ただ、数文字下げて「根拠」のように提示されている部分が、出典を記した引用だけでなく、筆者が自分で書いたように読める箇所も多々あって、面食らった、ということも付記しておきます。

章立て
  • 第1章 盛名
  • 第2章 有名人の症状
  • 第3章 ゲーテとベートホーフェン
  • 第4章 女たちの影
  • 第5章 ”不滅の恋人”
  • 第6章 愚行
  • 第7章 革命的な音楽家
  • 第8章 栄冠
  • 第9章 終章・フェニックスの歌