著者: 辻村深月
出版社: 朝日新聞出版
頁数: 416P
発売日: 2019年03月05日


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音楽ブログとは思えぬ内容の連投で、失礼いたします。
区立図書館がついに再開ということで、予約本をゲット。
そして、読み始めたら止まらなくなり、結局、ノンストップで3時間で読んでしまいました。
こうさせてしまう筆力に脱帽です。

序章は、ストーカー被害におびえつつ恋人の元へと急ぐ「彼女」の緊迫したシーン。

第1章は、こんな風に始まります。
「あ、ごめん。今ちょっと……。また後でこっちからかけていい?」
「いいよ。オレも今から一件、仕事で外回りがあるから、また夜にでも」

その会話が最後になるなんて、思わなかった。

序章の彼女の夫である架(かける)の視点から、物語は進みます。
おや、彼女、無事結婚したんですね
しかし、「その会話が最後」ときましたか。
おおお。
これは推理劇の始まりですね。

そう思って読み始めました。
そのとおり、前半はストーカー探しの推理小説の趣。
でも、だんだん、違和感が募ってきます。
そして、やはり私の直感は正しかったのだ!
という展開に。

でもって、後半は、序章の彼女、真理(まり)自身の視点からに切り替わります。
途中で
「なあんだ、そういうことね」
と、鼻白みそうになると、即、違う視点からの展開が始まるのです。

こういう書きっぷり、筆力、さすがです。

印象に残ったくだりは、こちら。

架は絶対に自分のことは自分で決めたいし、自由でいたい。しかし、世の中には、人の言うことに従い、誰かの基準に沿って生きることの方が合っているーーそういう生き方しか知らず、その方が得意な人たちも確かにいるのだ。特に、真面目で優しい子がそうなるのはよくわかる。ーー現代の結婚がうまくいかない理由は、『傲慢さと善良さ』にある。ーーp.153

オースティンの『高慢と偏見』の向こうを張ったタイトルであること、明らかです。

そして、真理が尊敬の念を抱いて心を許す友人、ジャネットのこんな言葉も胸に響きました。
「あなたがそうしたい、と強く思わないのだったら、人生はあなたの好きなことだけでいいの。興味が持てないことは恥ではないから」p.285


語学が堪能で、自分で奨学金を取って日本に留学し、その後、それを仕事につなげている」ジャネットの健康的な考えと、架(かける)の周囲のハイスペックな女友達たちで、真理に対する態度がなんと異なることか。

いろいろ、考えさせられます。
ストーリーとしては、明るい結末のよくできた展開となるわけですが、
そういった筋よりも、ここかしこに散りばめられた「毒」に反応してしまった私でした。
結構、深いです。