著者: 中島京子
出版社: 文藝春秋
頁数: 404P
発売日: 2019年05月15日
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タイトルに惹かれて借りてみました。
なんとなく、今の国会図書館を指すものだろうと思っていたら、さにあらず。
上野、です。
今は、国際子ども図書館。
その元々をたどっていくと、
書籍館(しょじゃくかん)。明治5年。
「ビブリオテーキ!」
「それがないことには近代国家とは言えないわけだな」「不平等条約が撤廃できないんだな」
ということで、明治新政府が思いついて、できたもの。

こういう、上野の図書館をめぐるうんちくっぽい歴史話が、あちこちに

夢見る帝国図書館・1 前史「ビブリオテーキ」
夢見る帝国図書館・2 東京書籍館時代「永井荷風の父」


といった具合に、コラムのように挟み込まれます。
そう。「書籍館」なのに本がない、という屈辱的な状況を払拭したのは、23歳の館長補・永井久一郎、のちに結婚して永井荷風の父となる男だったのでした。
このコラム、最後となるのが

夢見る帝国図書館・24 ピアニストの娘、帝国図書館にあらわる

です。
おおっ。何ごとっ?突然ピアニストっ?とびっくり。
実はこれ、昭和21年、戦後のこと。
ピアニストの娘とはレオ・シロタの娘ベアテ・シロタ、22歳。
なんと彼女、占領下日本に、アメリカ軍人の一人として来日し、日本国憲法の「GHQ草案」の資料を借り出しにあらわれたのでした。

つい長くなりました。
でも、これらはあくまで傍流のコラム的扱い。……実は、読み進めるほどに、本流のストーリーとのかかわりが明らかになってくる、という仕掛けです。

本流は、
小説家の「わたし」(小説冒頭では「物書きを目指して」る状態)が、上野の国際子ども図書館を取材した折に出会った老婦人、喜和子さんのストーリー。
彼女の口から、戦後間もなくの上野の様子とか、
それよりずっと以前のことが、図書館を慈しむ目で、あれこれと語られるのです。
まるで、おとぎ話のような話も。
短髪で、頭陀袋のようなスカートをはき、珍妙なコートをまとった老婦人、
ピノキオのような雰囲気の彼女って、いったいなにもの??

その謎解きのストーリーでもあります。

こういう、懐古的ムードの漂うなかで古風な女性を描くって、
中島京子の真骨頂発揮!って感じです。

現代の若い女性の視点では
(どんな立場な女性かは、ネタバレのなるので伏せます)
オペラ『魔笛』の解釈なども語られます。

「母親の支配から逃れる娘の物語だと思ってたんだけど、母親視点で見ると違ってて」
「母親視点?夜の女王視点ていうこと?」
「女性が結束して男性の支配と闘おうとする話に見えてきて」
「夜の女王VSザラストロの闘い」
「夜の女王は娘を説得していっしょに闘おう、ザラストロを倒そうとするんだけど、結局負けてしまうという」


こんなくだりもあります。
いろいろ考えさせられたり、歴史の真実に唸ったり。
触発されるところの多い小説でした。