今回は
「カイのこれまでを振り返り、世界への飛躍に向け、第一歩を踏み出すカイを描く」
そういう回だったと思います。
キーワードは
  • 約束
  • 新しい自分への脱皮
約束を果たすんだ!
信頼関係で結ばれた心が、相手に応えようとする信念が、すべての努力の動機付け、壁を乗り越える力となる。
その総決算が、ショパンコンクールのファイナルステージとなったのですね。

FA98AB42-F5F6-47E1-A53C-6459C689D6CE
冒頭、レフが、彼自身の悩みと葛藤をカイに伝えます。
事故で5年も意識のない姉・エミリアは、レフがこのコンクールで勝利すれば意識を取り戻すと約束した(姉は自分だけには話ができる、と語るレフ)……それが大きなプレッシャーになっている様子。

カイの反応
「俺たちに約束できるのは、ただベストを尽くすことだけ。」
「俺のピアノを、エミリアにも……エミリアだけじゃない、世界中の人に届ける。」

カイのこの言葉は、阿字野に師事しはじめた当初言われた
約束してほしい。カイにしか出せない音を必ず世界中に届けると。」
から出たものでした。

レフの次の反応には、カイとともに視聴者もびっくりだったでしょう。
「いいなあ、カイは。何の苦労もない坊ちゃんで。素直にまっすぐ育ってて。あこがれるよ。」

出自を理由に、幾多の辛酸をなめてきたカイ。
でも今や「坊ちゃん」に見えるような青年となっていたのですね。
環境は人を育てる。
「ピアノの音が出なければ、ピアノを交換すればいい。」と、レフのプレッシャーを軽減させるカイ。

932739F6-A085-4BE2-9719-6A903464C113
いよいよカイのファイナル。
会場には、小学生のころコンクールで出会ったタカコ(「便所姫」)の姿も。
彼女が、ネット中継で聴いた修平の第2次予選に
「あれは特別なピアノよね。音楽家の人生を変えるほどの。」
と告げます。さすが、わかる人には、わかるのです。

そして、はっとする場面へ。
ステージ直前、阿字野の手を求めてきたカイに、
不安なときはいつも彼に触れたがった幼いカイの姿を重ねた阿字野ですが、
C3039DA1-9B2C-4127-B405-11950D1BBED2
カイの意図は「森のピアノ」のかけらを阿字野に渡すことだったのです。

「これは先生が持ってて。」
「これからは阿字野壮介を支えるように、言い聞かせておいたから。」
「俺はもう大丈夫。そいつと、客席で見てて。俺、弾いてくる。」

「カイが私から巣立っていく。行け、カイ。未来をつかむために。」

いよいよオケの演奏が始まります。
ピアノが入るまでに長い時間がかかるピアノ協奏曲第1番。
その音楽に合わせて、さまざまな人々……カイを支え、応援する人々の姿が。
客席の修平、タカコ、阿字野、、、。
ワルシャワのバーの人々、日本のレイちゃん、森の端の人々、、

ピアノの音色に、阿字野の独白が重なります。
「レイコさん、今、カイは世界に向けて自分のピアノを弾いています。」

そして……なんと、会場全体が
停電。

真っ暗な中で、自分のピアノをまったくぶれずに弾き続け、オーケストラも、観客の動揺も落ち着かせてしまうカイ。
一気に観客の耳を作品世界に集中させるカイ。
パンウェイの独白
「奴は、突然の闇を最大の演出に変えたんだ。」
指揮者とオーケストラ
「我々はどこまでもついていく。」

甘美な第2楽章。
闇の中で、たっぷりととった休符の効果……やはりこの番組のために新たに収録された演奏でしょうか。

阿字野の心に、カイへの感謝が沸き上がります。
死んだように生きていた自分が、カイのおかげで感情を取り戻した。
カイが成長する喜びが、私にとってかけがえのないものになっていった。

日本では、画面を見つめて涙するレイコの姿が。
カイの言葉がオーバーラップします。
「本当に阿字野を喜ばせることがあるとしたら、一つだけ。」
「阿字野は必死だった。俺を一人前のピアニストにするために生きていた。」

ピアノの音色に重ねて、苦労のシーンが次々と。
「俺は阿字野に土下座をさせてまで、学校になんか行きたくない。」
諭す阿字野。
「だったら、人の何倍も努力して、きっちり卒業しろ。」
「私を動かしているのは、正真正銘、お前の力だ。」
「お前は森のピアノに選ばれた奴なんだぞ。自分を信じろ。自分を信じることができないなら、私を信じろ。」

3A6F8E27-5923-4BBE-B64E-EA92CB66A873
ピアノの森にいる気持ちで、自分を信じて弾くカイ。
いよいよ第三楽章になると、演奏に変化が訪れます。

阿字野
「今こそ、その森を出るんだ。」
「もう今は、森に戻らなくてもお前のピアノが弾けるはずだ。」

カイの心も阿字野と意識と連動しているかのようです。
  • 森で育ったカイ vs  平地で育ったショパン
この対比に気づいていたカイは、
ショパンの育ったポーランドの、どこまでもどこまでも続く平地を思い、
ショパンの見ていた、大きな大きな空を思って弾くうちに、

「森から、抜けた!」という境地に。

阿字野の独白
「これが、これこそが、私の聴きたかったカイのピアノ。」
「そうか、私の求めていたのはこういう音だったのか。」
「のびやかに、のびやかに、世界中の天空を駆けめぐる。」


最後は、カイの心の叫び。
「ああ、音楽は、こんなにも、自由だ!」
C5862849-4028-4076-B604-87FC567CECCB

BGMとして流れる協奏曲の美しかったこと。
その音を邪魔せずに流れる映像、けっして多くはないセリフも効果的でした。
今回もモーションキャプチャーなしの紙芝居的アニメーションでしたが、音楽を引き立たせるには、これでよかったと思います。

あらすじ以外で印象に残ったこと。

(1)レフとカイの交わした別れ際のあいさつの響き
「ポーボーゼーニャ」
ぐぐってみたら、ポーランド語「powodzenia」。
幸運を祈る。……私も使っちゃおうかな~。

(2)コンクール冊子記載のカイのプロフィール
「阿字野壮介と森のピアノに師事」ですって。
森のピアノは、ピアノ教室か何かの名前だと思った…というマエストロ。
でも、実際に「森のピアノ」がカイの演奏を成長させたということは、阿字野にとって自明のこと。
・ピアノの音を、部屋を通り抜ける風に乗せる
・森の蛇をおとなしくさせる方法を使って、柔らかい音を出す
こんなことが自然にできてしまうカイなのでした。
それを「森のピアノに師事」と表現するなんて、かっこいいなあ~。