視聴を終えて、秀逸なタイトルだなあ、と思いました。
「君の”1番”のために」
この「1番」とは
  • カイの最高の演奏
  • ショパンのピアノ協奏曲第1番
の2つの意味を持たせた掛詞(かけことば)でしょう。
ショパンのピアノ協奏曲のうち、カイがファイナルで演奏するピアノ協奏曲は1番。
2曲のうち
「派手な演奏効果を持つ1番を選ぶコンテスタントが圧倒的に多い」こと、
「今回2番を選択しているのは12名中3名。中国のパンウェイ、ウクライナのオレーシャ・ユーシェンコ、日本のムカイサトル」であるとの解説が入りました(聴衆の独白として)。

そういえば、協奏曲第2番を選ぶと優勝できないというジンクスを聞いた覚えが。。。確かめてみたら、第2番での優勝者は「第1回のヤコフ・ザーク(第2、第3楽章)と1980年のダン・タイ・ソンだけ」だそうです。

さて、今回のストーリーの肝は、カイに近しい人たちの、カイへの思いです。
前回、ファイナルに進めなかったことに関して、その心のどろどろをカイにぶつけてしまったことについて、すっかりふっきれた雨宮修平。
いま、彼には「やり残したこと」が、ただ一つ。

「カイ君がベストな状態でファイナルのステージに立つために、僕はどうすればいいのか」
「僕は君の一番大事なときに君を傷つけた」

そうです。
カイは傷ついていました。修平の「僕は君が嫌いだった」という言葉に。
カイの独白。
「子どものころから人に嫌われることには慣れていた」
「いろいろあったけど、雨宮は俺のはじめての同志だった。そばにいなくても、今ごろ雨宮もピアノと格闘していると思うと力になった」
カイと修平の心の向かうところは同じだと思っていたからこそ頑張れた、
と、修平の存在に頼ってきた自分に気づくカイなのでした。

ソフィー・オルメッソンのファイナルステージを見て、練習すると会場を後にしたカイですが、当然ながら練習に集中できません。
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カイの異変に気付いていた阿字野とジャン=ジャック・セロー。
練習室に現れた阿字野の「最後のレッスン」での言葉が、また深かった。

私から教わったことはすっかり忘れなさい
忘れるのも大きな才能の一つ
今お前に必要なものはすべて、お前の血肉になっているんだよ
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ここでカイに手渡したのが、日本を発つときにカイの母・レイコさんに手渡された、カイへのお守り代わりです。ああ、こういう場面で!とハッとしました。

カイ「俺の、森のピアノのかけら」

そいつがなくても、お前の中には、森のピアノがあるだろう?
お前のものにしたものは、失くしようがない。
私の教えたことは、お前が全部、自分のものにしてきたはずだ。
だから安心して、すべて忘れろ。頭の中を真っ白にして、ファイナルに挑むんだ。
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協奏曲は大勢の職人たちとの共同作業になる。
その場で全神経を研ぎ澄ませて、オケの音と、呼吸、そして観客、それらとどうコミュニケーションをとれるか、それが勝負になるだろう。
99%はもう学習してきた。残りの1%、残りの無限大はステージで直感で弾け。
大丈夫。自信を持て。
お前はもう、一ノ瀬開というオリジナルなんだよ。

ううむ。プロの助言です。深い。
そして、阿字野が去った後のカイの対応にも唸らされました。

泣くだけ泣いたら落ち着いた。
人生はいろんなことがある。
とりあえず、頭の中をリセットしてみよう。
身についているなら、できる。
ただただ、集中するのみ。
そうすれば、
頭が空っぽになって、森に行ける。
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こういう境地に達するまでのカイの努力に、その道のりに頭が下がります。
そして、
この後の展開に、涙が出ました。
気を取り直して練習を始めたカイの独奏パートに寄り添う、オーケストラパートのピアノ。
不自由な左手を抱える阿字野には果たせなかった、生演奏のピアノによる伴奏。

どこからか、オケのパートのピアノが聞こえる。
幻想?
となりから?
ついてくる。
なんて、なんて、気持ちのいい。
ああ、この音は。

弾いていたのは、もちろん、
カイの居場所を予測して隣室に来ていながら、どう行動していいかわからずにいた修平。

遅くなってごめん、手伝いに来た。

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ステージに場を移して練習する二人。
それを見守る阿字野とセロー。
いい場面です。

さて、それに対して、大変な渦中に投げ込まれたのが、パンウェイです。
突如現れた男たちに、中国への帰国を迫られた後、
ファイナルの出番を初日から最終日に移動したからと
特別な練習室に案内され、3日間ここで思う存分練習するよう指示されたパンウェイ。
案の定、けがを負った義父の差し金でした。
「初日と最終日では審査員の印象が全く違う。あいつのことだ、汚い手は使わないだろうから」
と、「父危篤」という情報で事務局を動かした義父。

こんな情報を聴くと、第一演奏者で優勝した前回大会のチョ・ソンジンの偉大さが際立ちますね。


それはさておき、
カイが、阿字野、セロー、修平、母のレイちゃんと、理解者に囲まれているのに対し、
パンウェイの置かれた環境は、なんとギスギスと苛烈なことか。


「ロンティボーのときより格段に進歩している」というパンウェイの感想を引き出した(特別練習室は会場の様子を映し出すモニターつきなのです)第一演奏者・ソフィーは、
「20歳のショパンは希望や勇気を胸に、祖国を旅だった。その行き先は私の国、フランス、パリ。この曲は私にこそふさわしい」
という自負を持って演奏。
今後のコンテスタントの思いがどう描写されていくのか、期待されます。


さて、今回のステージ演奏はソフィーだけだなあ、と思っていたら、仰天。
番組最後に現れたのは、こんなクレジットでした。
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2台ピアノ版コンチェルト第1番の演奏者として表示されたのは
  • 高木竜馬(雨宮修平)
  • 反田恭平(阿字野壮介)
という文字。
確かに、阿字野の演奏もチラリと出ましたねえ。オケパートの練習音源、ということで。
ああ、そうか、「(2台ピアノ)」と表示されるのは、オケパートなのですね。
ピアノパートは、オケと合わせようが、ピアノと合わせようが、内容に変化はないわけで。
とすると、演奏者名が空白になっているところが、カイの演奏担当者になるわけですね。
一瞬、
「反田君がカイの演奏担当と明かされたか?」
と思いましたが、そうではなかったのでした。💦