アンドレアス・グルーパー 著 酒寄進一 訳 創元推理文庫 2013年2月 刊

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原題『Rachesommer』~復讐の夏~
このタイトルの方がしっくりきます。復讐に立ち上がった者の物語。

ウィーンの若い女性弁護士と、ライプツィヒの男性ヤモメ刑事が活躍する推理物
と聞いて興味を惹かれ、軽い気持ちで手に取りました。
仕事が多忙になると出る、いつもの逃避行動です。

例によって、長距離通勤行き帰りの時間であっという間に読み切りました。
449頁。決して短くはないのですが。

内容は結構ヘビーでした。
児童虐待が、1つのテーマをなしていることもあり。
金持ち男性集団の鼻もちならない裏の顔にげっそり。
彼らの素行の犠牲となって、精神的に病んだ若者たちの姿に暗澹たる気分に。

とはいえ、
酔った小児科医がマンホールにはまって死亡、
市会議員が山道を運転中にエアバッグが作動してハンドルを切り損ねて死亡、
という2つの案件を引き金として動き出すウィーンのエヴェリーンと、
病院での若い患者の不審死を追うライプツィヒのヴァルターの二人の姿が交互に描かれる展開に、
いったいこの二つの路線がどうつながるのか、
二人はどこでどう出会い、どんな結末となるのか、
ドキドキ感満載でした。

ドイツというと「公明正大」なイメージが強いですが、
それでも、権力者が勝つ!社会的弱者は無視される!という傾向は否めないのだなあ
と思ったりも。
実は同じ一つの根をもつ殺人事件でありながら、
小児科医や市会議員は、建設業者や車メーカーを訴えて勝訴を勝ち取りかけ、
病院での死は自殺として片づけられそうになるのですから。

単に事件の真相を追うというだけでなく、登場人物の描き込み方も上手いです。
エヴェリーンは少女時代に忌まわしい記憶を持ち、
ヴァルターは妻を病で亡くした痛手から立ち直っていません。

著者は1968年ウィーン生まれとのこと。
なんとなく、物事の捉え方に同世代の感覚を覚えます。
ワクワクと、次の作品に手が伸びてしまう私です。